「GO」(金城一紀)①

問題提起を若い世代に行っている貴重な一冊

「GO」(金城一紀)講談社文庫

在日朝鮮人・杉原は
民族学校卒業後、
日本の普通高校へ進んだ高校生。
父親から仕込まれた
ボクシングのおかげで
喧嘩に強く、
23戦無敗。
ある日、ヤクザの息子・加藤の
主宰するパーティで
不思議な魅力を放つ
女の子・桜井と出会う…。

裏表紙の紹介文には
「感動の青春恋愛小説」とありますが、
その手の恋愛ものは
他にいくらでもあります。
本書の最大の特徴は、
若い世代を主人公として
「在日」や国籍の問題提起を
行っているという点につきます。
私もこれまで気付かなかった
(あるいは無意識のうちに
目を背けていたかもしれない)
部分があり、
考えさせられました。

その一つは
在日韓国人・在日朝鮮人に対する
差別の実態についてです。
地方に住んでいるせいか、
こうした方々に接する機会が
これまでありませんでした。
本作品の発表が平成12年。
作品の舞台はそれ以前でしょうから、
指紋押捺制度が
実施されていた時代です。
制度としての差別は解消されても、
日本人の心の奥底に
差別的な意識が
まだ残っているとしたら
悲しいことです。

もう一つは、
「国」「国籍」「民族」という
枠組みの問題に対してです。
主人公のセリフ
「俺が国籍を変えないのは、
 もうこれ以上、
 国なんてものに
 新しく組み込まれたり、
 取り込まれたり、
 締めつけられたりされるのが
 嫌だからだ。
 もうこれ以上、
 大きなものに帰属してる、
 なんて感覚を
 抱えながら生きてくのは、
 まっぴらごめんなんだよ。」

共感できる部分は
確かに大きいのですが…。
しかし身分や安全や財産権が
保障されているのは
「国」という枠組みのおかげであることも
また事実なのです。
私たちは否応なしに
「国」の枠組みの中でしか
生きられないのではないでしょうか。

近くて遠い国、韓国、そして北朝鮮。
今なお種々の政治的背景を引きずり、
その距離はなかなか縮まりません。
隣国への理解を
「韓流ブーム」程度で終わらせては
ならないといつも思っています。
そのためには日本国内における
こうした在日問題を知ることも
大切だと考えます。
本書はその問題提起を、
若い世代に行っている貴重な一冊です。
「感動の青春恋愛」部分は、
在日問題という苦い薬を包むための
オブラートにすぎません。

知性と暴力性の
混在した主人公の人物設定や
安易な結末等、
突っ込みどころは数多くあるのですが、
それを補ってあまりある魅力が
本書にはあります。

(2019.1.14)

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